芋虫のつぶやき
VOL38:(371〜380)

371「クロヒカゲ幼虫の越冬」

前回の「芋虫」で紹介したものも含めると、ここ2ヶ月で確認したクロヒカゲの越冬幼虫は3頭となった。今月に入って確認した2例をここに 紹介したい。

1頭は体長10oで2〜3齢と思われ、体色は褐色(頭部と尾端は緑色)であった。もう1頭は体長8oで2齢と思われ緑色であった。

いずれもアカマツ林の下に生えるシナノザサに見出された。アカマツが傘となり、雪が積もらない場所であること、付いていた葉は地表から15cm〜 20センチ程度の高さであることが、発見された2例の共通点である。

越冬時、根際に下りる習性もある本種であるが、上記の幼虫たちはシナノザサの葉裏の中脈に糸を吐いて座を作り、しっかりと止まっていた。 もう3月も半ば、越冬は確実であろう。信州では記録の少ないクロヒカゲの若齢越冬であるが、案外普通に行われているのかも知れない。

シナノザサの葉裏にはクロヒカゲのほか、ヒメキマダラヒカゲやヒカゲチョウの越冬幼虫も見つかった。

写真1:2〜3齢の褐色型 体長10o
 2005.3.10 堀金村
写真2:2齢?の緑色型 体長8o
 2005.3.13 堀金村
写真3:ヒメキマダラヒカゲの越冬幼虫(中田信好氏)
写真4:ヒカゲチョウの越冬幼虫(中田信好氏)
指導・助言 浜 栄一先生
参考文献: 原色日本蝶類生態図鑑W
写真1(クロヒカゲ1)

写真2(クロヒカゲ2)

写真3(ヒメキマダラヒカゲ)

写真4(ヒカゲチョウ)


372「早春の里山」

彼岸の中日、春めいた日差しが背中に暖かい。山麓では、この日を待ちかねたように飛び出した虫たちの姿をあちらこちらで見ることができた。

チョウでは成虫越冬の代表格、ヒオドシチョウが太陽に向かって翅を広げていた。翅の痛みも少なく、緋縅の色も赤く鮮やかだ。越冬した場所 の条件がよかったに違いない。

オツネントンボは野面の枯草に色が似ていて、止まったとたん周囲に溶け込んでしまう。しかも大きな複眼で絶えず監視しているので敏感で、 息を殺して近づかねばならない。名前のとおり成虫のまま越冬するが、トンボの仲間では異色の存在と言える。成熟成虫になるのは越冬後であ る。

もっとも数多く出現していたのはセイヨウミツバチである。目ぼしい花は、オオイヌノフグリとカキドオシ、ヒメオドリコソウと少なめ。それ でもブンブンと羽音をたてながら、元気よく飛び回っていた。

この時期、吹き抜ける風はさすがにまだ冷たい。虫たちが集まるスポットは、南向きの傾斜地などの風が遮られる陽だまりで、虫にとっても私 にとっても居心地のよい場所なのである。

写真1: ヒオドシチョウ
 2005.3.19
写真2:オツネントンボ 
写真3:セイヨウミツバチ 
写真4:ヤドリバエの仲間
  撮影地はいずれも安曇野山麓
写真1(ヒオドシチョウ)

写真2(オツネントンボ)

写真3(セイヨウミツバチ)

写真4(ヤドリバエの仲間)


373「ノスリの狩り」

春に踊る虫たちを撮ろうと楽しみにしていた週末であったが、一夜にして冬景色に戻ってしまった。野面には思ったよりも厚く雪が積もり、虫たち の気配は感じられない。

足取りも重い帰り道、偶然ノスリを見つけた。農道沿いの果樹の梢に止まり、畑地に睨みをきかせていた。どうやら狩りをしているらしい。最近、 鳥を撮る面白さを感じ始めていたこともあり、ノスリの撮影に挑戦することにした。

虫の撮影と鳥の撮影の大きな違いは「待つ」ことではないか。虫は追いかけて撮ることが多いが、鳥は待たなければよい写真は撮れないし、警戒さ れていれば近づくことすらかなわないだろう。せっかち型の撮影が身に染みている私にとって待つことは苦痛である。加えて貧相なカメラ機材が撮 影を遠ざける。

ところがどうだろう。車で近づいてもノスリの視線は周囲の畑に注がれたまま。たまに目が合うものの、それほどの警戒心は持たれていないようだっ た。車の窓を開けて、獲物を狙って飛び立つ瞬間を待った。ノスリは期待を裏切らず、幾度かの滑降を繰り返し狩りを試みた。私は夢中でシャッター を切った。

1時間半ほどが瞬く間に過ぎたが、結局、ノスリが獲物を捕らえることはなかった。おそらくネズミを狙っていたと思われるが、意外と効率が悪 いものだと思った。写真の大半はブレ・ボケ写真で、飛ぶ鳥を望遠で追う難しさをいやと言うほど感じた半面、何とか使えそうな写真に写った ノスリの精悍な表情や姿に、野生の美しさをしみじみと感じたのであった。

写真:1〜5 リンゴの木の梢で見張り、
獲物めがけて舞い降りるノスリ
写真:6 目の前の草地に飛び込むが、
獲物には逃げられる
撮影:2005.03.26 安曇野
写真1(ノスリの見張り)

写真2(飛び出すノスリ)

写真3(舞うノスリ)

写真4(ノスリ)

写真5(ノスリ)

写真6(草地に飛び込むノスリ)


374「ミツバチとヒメオドリコソウ」

ミツバチがヒメオドリコソウの花を訪れていた。 おそらくハチは、下から張り出した花びらの色と模様に誘われて近づき蜜を求めるのだろうが、ハチが花に止まった瞬間、上の花びらが帽子の ようにハチの頭部を被う。その花びらの裏側には雄しべや雌しべが付いていて、花粉の受け渡しができるようになっている。

こうした様子を見るにつけ、植物と動物は共に関わりながら進化してきたのだと実感する。

写真1:飛翔するセイヨウミツバチ
写真2:花びらを被るミツバチ
写真3:ヒメオドリコソウの花
撮影:2005.3.21 安曇野
写真1(飛翔するセイヨウミツバチ)

写真2(花びらを被るミツバチ)

写真3(ヒメオドリコソウの花)


375「アマナ咲く」

アマナは「甘菜」の意。古来、薬草や山菜として利用されてきたユリ科の植物である。 同じ時期に咲くカタクリも「片栗粉」の語源となったように、球根や葉が食用にされてきた。

しかし、いずれも野山からその数を減らし、ことアマナに至ってはなかなか見つけることができなくなっている。田んぼの片隅にしがみつくよ うに咲くアマナ。清楚な野生のチューリップは野にあってこそ美しい。

今年一番見事に咲いていた株(写真1)がこの数日後に持ち去られていた。掘り取られた跡が痛々しく残る。甘菜の名が物悲しくもある。

写真:2005.4.10 安曇野
写真1(アマナ1)

写真2(アマナ2)

写真3(キバナノアマナ1)

写真4(キバナノアマナ2)


376「オオルリ」

オオルリが、とまっている枝から地面に飛び降りる行動を見せていた。再び枝に止まると、その嘴には何かの幼虫がくわえられている。草本の根際に潜むヨトウ などの蛾の幼虫ではあるまいか。

その後、ホバーリング(空中静止)をしながら獲物を狙う姿も見られた。オオルリは空中で獲物をキャッチする名人とも聞くが、ホバーリングがそのためのものか はわからない。静止時間は3〜4秒程度で、オオルリの視線は一点に集中しているように見えた。

写真にしてみて分かったことだが、上半身の濃紺と下半身の純白のコントラストが美しく、なかなか可愛らしい鳥である。

写真:2005.4.30 県営烏川緑地
写真1(オオルリ1)

写真2(オオルリ2)

写真3(オオルリ3)

写真4(オオルリ4)


377「ミスジチョウの幼虫」

イタヤカエデの若木で、ミスジチョウの幼虫を見つけた。カエデの枯れ葉に包まり、樹上で厳しい冬を乗り越えたのだ。葉柄は強風でも飛ばされないように、しっ かりと枝にくくりつけられていた。

その葉は春になってもしばらくは棲家として利用される。幼虫の色や形は枯れ葉のそれによく似ていて、みごとなカムフラージュとなっている。

写真:2005.5.5 烏川渓谷
写真1(ミスジチョウ幼虫1)

写真2(ミスズチョウ幼虫2)


378「ヒメギフチョウ」

「カタクリとヒメギフチョウ」という構図で、これまで幾度のシャッターを押してきたことだろう。 実際に数えてみたわけではないが、私のアルバムの中でダントツの枚数を誇ることだけは間違いない。それは、これほど絵になる花と蝶の取り合わせはめったに ないからで、「美しいものを撮りたい」という単純な動機が、この時期の私をせっせと山に向かわせるのである。

ところがどんなに枚数を重ねても、「これは」という作品はなかなかできない。いくつか理由はあるが、早春という時期や、このチョウの生息環境に起因するこ とが多い。例えば、林床に厚く積もった枯葉は、撮影上まことに厄介な存在で、木漏れ陽を乱反射させて背景を乱し、枯れ枝や枯れ草は、不規則に画面を分断し 遠慮がない。

ヒメギフチョウが舞う季節はとうに終わり、今年も未熟な腕の後悔がにじむ変り映えのしない写真だけが残された。春の舞姫の存在はいつも悩ましい。

写真1:2005.4.19 
写真2:交尾…♂(左)の交尾器が♀の尾端を挟みこんでい る 
写真3:交尾中の個体を止まらせて撮影
写真4:斑紋異常型(左上翅の紋が 乱れている)
写真1(ヒメギフチョウ)

写真2(ヒメギフチョウ交尾1)

写真3(ヒメギフチョウ交尾2)

写真4(ヒメギフチョウ異常型)


379「ギフチョウとヒメギフチョウ」

ギフチョウとヒメギフチョウは、本州中部を通り東北地方に至る線を境に分布上のはっきりした棲み分けが見られる。この境界線は「リュードルフィア(Luehdorfia) 線」と呼ばれる。

この境界線上ではわずかではあるが、両種の混生地がみられ、そこでは「春の女神」2種が同じフィールドを飛び交うという、チョウの愛好家にとっては夢のような光景 に出会える。

混生地のひとつ白馬村の生息地では、今年も両種の競演が繰り広げられた。当地のギフチョウは黄色い縁毛(イエローバンド)を持つ個体が出現することで知ら れるが、ヒメギフチョウにもかなり長めの縁毛を持つものがいて興味深い。

同じフィールドで両種が飛び交うことの不思議を思いながら、花を訪れる彼女たちを追った。

写真1:2005.5.8
 ギフチョウ(花はスミレサイシン)2005.5.8
写真2:ギフチョウ
(や やイエローバンドがかかる)
写真3:ヒメギフチョウ♀ 
写真4:3と同じ個体の裏面
写真1(ギフチョウ1)

写真2(ギフチョウ2)

写真3(ヒメギフチョウ1

写真4(ヒメギフチョウ2)


380「八重咲きのカタクリ」

虫友の中田信好君が、八重咲きのカタクリを見つけた。これまでもカタクリの変り種はいくつか見てきたが、ここまで変化したものは珍しい。

通常、カタクリの花びらは6枚であるが、この「八重咲き」は外側から8枚、5枚、4枚と3段になっていた。ただし一番内側については、花びらが小さく本当に4枚で あるかは少々疑わしい。

内側の2段は、雌しべが変化して花びら状になったように思われる。この変り種が来年も同じように咲いてくれることを期待しつつ、山を下りた。

写真:2005.4.23〜24 安曇野
写真1(カタクリ1)

写真2(カタクリ2)

写真3(カタクリ3)



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