芋虫のつぶやき
VOL35:(341〜350)

341「雪形」

山肌に残雪が模様を刻んだ「雪形(ゆきがた)」は、山の名前の由来になったり、農事の時期の目安になるなど、古くから親しまれてきた。安曇野 は北アルプスの山々を背景にしていることから、4月から5月頃にかけて10ほどの雪形を眺めることができ、全国的にも稀な雪形景勝の地となっ ている。

現在見ごろを迎えているのは、常念岳の「常念坊」や鹿島槍ヶ岳の「シシ」であろうか。白馬三山北の白馬乗鞍岳には「鶏」も遠望できる。振り返っ て東には、鉢伏山の「雁」が見えるがすでに終わりに近い。しんがりを務める蝶ケ岳の「蝶」は、5月中旬〜下旬が見ごろとなる。

雪形は、田淵行男の『山の紋章 雪形』に詳しい。田淵は、その中で、広く知られている蝶ケ岳の「蝶」の雪形のほかに、もうひとつの「蝶」の あることを記している。添付写真の黒いアゲハチョウを思わせる雪形がそれである。

写真1:常念岳の「常念坊」 
2004.4.21 三郷村より
写真2:蝶ケ岳のもうひとつの「蝶」 
2004.4.21 三郷村より
写真3:爺ケ岳の「種まき爺さん」 
2004.4.21 三郷村より
写真4:鹿島槍ヶ岳の「シシ」 
2004.4.21 三郷村より
写真5:白馬乗鞍岳の「鶏」 
2004.4.21 三郷村より
写真6:鉢伏山の「雁」
2004.4.16 堀金村
写真1(常念岳の「常念坊」)

写真2(蝶ケ岳のもうひとつの「蝶」)

写真3(爺ケ岳の「種まき爺さん」)

写真4(鹿島槍ヶ岳の「シシ」)

写真5(白馬乗鞍岳の「鶏」)

写真6(鉢伏山の「雁」)


342「自然の落し物」

県営烏川緑地は、この4月で開園3年目を迎えた。4月から11月の期間は、2名のスタッフが管理や、観察会の指導に当たっている。昆虫ク ラブの活動も、この公園を利用する機会が多くなっている。

その理由のいくつかを挙げると、
 @駐車場がある
 A観察に適した園路が配置されている
 B森林の手入れが行われ、明るい環境が広がってき ている
 C自然に詳しいスタッフが常駐している
 D車両の往来がなく安全で観察に集中できる 
などである。

4月の観察会では、園内で6匹ものヒメギフチョウを確認した。Bの成果と思われ、公園の調査・計画以降、これほどのまとまった確認例は無 かったことである。また、何といってもCのスタッフの活躍が大きい。
この日は園内で見つけた「自然の落し物」を見せていただいた。哺乳類の骨やカビで死んだ虫、動物の食痕、セミやヘビの抜け殻など、そのほ とんどが「採集した」というよりは「拾った」ものなのである。実際に手にとって見る子どもたちの表情は真剣であった。

写真1:コムラサキの幼虫探し
 2004.4.29 県営烏川緑地
写真2:コムラサキの越冬幼虫
 2004.4.29 県営烏川緑地
写真3:「落し物」の観察
 2004.4.29 同緑地環境管理棟
写真1(コムラサキの幼虫探し)

写真2(コムラサキの越冬幼虫)

写真3(「落し物」の観察)


343「スギタニルリシジミ」

「吸水行動」は、地面の水を吸うチョウの習性として知られる。ほとんどが新鮮な雄であること、同じ種類同士で群れることが多い、などの特 徴がある。

写真は、舗装の途切れた林道で、無心に水を吸うスギタニルリシジミである。同じ場所に4〜5匹が集まっていた。そして、驚いたことに、水 を吸う雄たちの周りには、車に轢かれた仲間たちが横たわっていたのである。

しかし、彼らは凄惨な情景を気にとめる様子もなく、ひたすら水を吸い続けている。時おり尾端からはピュッと水が飛び出ている。吸った水を 排出しているのだ。それでも彼らは吸うのを止めない。次の車が来れば、彼らもまた轢かれてしまうというのに。

吸水の理由については、いくつかの説があるが、はっきりとは解明されていない。ただ、彼らが生きて行くために不可欠な行動であることは、 充分伝わってくる。

写真1:スギタニルリシジミの吸水
 2004.4.29 堀金村
写真1(スギタニルリシジミの吸水)


344「ミヤマカラスアゲハ」

ミヤマカラスアゲハは、日本産チョウ類の中でも取り分け美しいチョウとして知られる。昆虫クラブの子どもたちにとっても特別な存在で、初 めて採集した子がその美しさに感激し、チョウの持つ手を振るわせる場面を幾度か見ている。

春型は、夏型に比べ青緑色の帯が一段と強く輝く。数が少ない上に、どこからともなく突然現れ、子どもたちの捕虫網を巧みにすり抜けて飛ん でいく。なかなか採集するのは難しい。

ただ、チョウが残していった幻想的な輝きだけは、いつまでも脳裏に焼き付いて離れない。

写真1:ミヤマカラスアゲハ春型
 2004.5.8 堀金村
写真2:同 夏型       
 2002.8.8 三郷村
写真1(ミヤマカラスアゲハ春型)

写真2(ミヤマカラスアゲハ夏型)


345「開田村のギフチョウ」

木曽の開田村で、思いがけず2匹のギフチョウに出合った。ギフチョウは日本特産種で、ヒメギフチョウと共に「春の女神」と呼ばれる美しい アゲハチョウである。開田村では、ここ20年以上は記録がないというから、普通なら「貴重な発見」といったところだろう。

ただ、マニアが他地域の個体を放蝶するケースもあることから、慎重な判断が必要と思われた。今回の個体は、黄色い縁取りの掛かった個体 (イエローバンド型)であったり、全体的に黄色の部分が広いなど、長野県北部型のような特徴が見られることから、純粋な開田村産のギフチョ ウなのかどうか、疑問を感じた。事情に詳しい方にお聞きしたところ、マニアが放した白馬村産ではないか、とのことであった。開田村周辺で は3年ほど前からこうした個体の発生がみられるという。

一部のマニアの間では、稀少種の放チョウを正当化する声があり、公然と実行している人たちもいる。しかし、離れた地域の個体群を持ち込む ことは、遺伝子構成に影響を与えかねない危険な行為である。

せっかく撮れた「春の女神」の写真が、色あせて見えてきた。

写真1.2 羽化後のギフチョウ(1.2は同じ個体)
2004.5.2 開田村
写真3: 前翅の折れた個体(僅かだがイエローパンドがかかる)
2004.5.2 開田村

*参考文献 長野県産チョウ類動態図鑑 信州昆虫学会ほか
写真1(羽化後のギフチョウ)

写真2(羽化後のギフチョウ)

写真3(前翅の折れた個体‥)


346「ゼフィルスの幼虫」

ゼフィルス(ミドリシジミ類)の、幼虫期の生態観察を目的として白馬村を訪れた。チョウ類研究で知られる浜 栄一先生にも同行していただ き、充実した観察会となった。

この日、確認できたゼフィルスの幼虫は、アカシジミ・エゾミドリシジミ(以上ミズナラ)・ミズイロオナガシジミ(ミズナラ・コナラ)・ウ ラクロシジミ(マンサク)の4種であった。

このうち、エゾミドリシジミの幼虫は、ミズナラの鱗片と若葉を綴った巣の中に巧みに隠れているものを1匹と、同系色を利用して幹の割れ目 やひだなどに潜んでいるものを4匹見つけた。いずれも終齢幼虫のようだった。

今回は、浜先生からゼフィルスの幼虫期における生態の特徴をお教えいただき、幼虫探しの面白さや、その奥深さを知ることができた。先生は 幼虫が見つかる都度、発見した場所の地形や環境、幼虫の様子などを野帳に書き込んでいく。

地味で根気のいる作業だが、こうした丹念な観察の繰り返しが、多くのチョウの生態解明に繋ってきたと拝察する。毎回ただ撮影しただけの、 説明のつかないピンぼけ生態写真に悩まされる私にとって、求めるべき姿がそこにはあった。

写真1.2:エゾミドリシジミ幼虫
写真3:ウラクロシジミ幼虫と食痕
写真4:アカシジミ幼虫
写真5:幼虫をスケッチする浜先生
写真はいずれも2004.5.15 白馬村
写真1(エゾミドリシジミ幼虫1)

写真2(エゾミドリシジミ幼虫2)

写真3(ウラクロシジミ幼虫と食痕)

写真4(アカシジミ幼虫)

写真5(幼虫をスケッチする浜先生)


347「オナガグモ」

アカマツの葉の近くで見つけたのは「オナガグモ」。体長は3cmほどで、手足を伸ばして静止していると一本の枯れ松葉にしか見えない。見事な 擬態といえばそれまでだが、どのようにしてこの体形をつくり上げたのだろうか。見れば見るほど不思議でならない。移動するときなどは腹部 がしなやかに曲がり、トカゲのしっぽを連想させる。

獲物がクモというのも変わっている。クモの世界ではよくあることなのだろうか。図鑑によると、粘性の糸を獲物に投げつけて捕らえるのだと いう。今度ぜひ見てみたいものである。

写真1:2004.5.29 
写真2.3:2004.5.30 いずれも堀金村
参考文献:改定校庭のクモ・ダニ・アブラムシ 全国農村教育協会
写真1(オナガグモ1)

写真2(オナガグモ2)

写真3(オナガグモ3)


348「ゼフィルスの季節」

台風が近づき、朝から風が強く吹きつけていた。この日を待ちかねたようにゼフィルス(ミドリシジミの仲間)の写真撮影に誘ってくれたのは、 蝶友の中田信好君である。普段は、雑木の梢にいてなかなか降りてこないゼフィルスたちが、強い風の日には下に舞い降りるのだという。期待 を込めて東筑摩郡のある雑木林へ向かった。

案の定、アカシジミ・ウラナミアカシジミ・ミズイロオナガシジミの3種のゼフィルスが、手の届きそうな高さに止まっている。ことにアカシ ジミの数がやたらに多く、50〜60匹は見たと思う。

また、ウラナミアカシジミは、私の住む三郷村から姿を消して久しい。その幾何学的な縞模様はいつ見ても神秘的である。

写真1:アカシジミ 
写真2:ウラナミアカシジミ 
写真3:ミズイロオナガシジミ
 2004.6.20 東筑摩郡
写真1(アカシジミ)

写真2(ウラナミアカシジミ)


写真3(ミズイロオナガシジミ)


349「東天井岳の白い仔犬」

安曇野の雪形シーズンを締めくくるのは、蝶ケ岳の「蝶」である。5月下旬から6月上旬にかけて見る事ができる。しかし、6月中旬頃から見 ごろを迎える東天井岳(2814m)の「白い仔犬」の雪形は、あまり知られていない。この雪形は出現時期が梅雨と重なるし、展望のきく地域が狭 く限られているためである。
田淵行男の『山の紋章 雪形』には、仔犬の雪形は小立野という集落に伝承されていたこと、麦刈りの時期を告げる雪形であることなどが記さ れている。小立野は生坂村に残る地名である。
梅雨の晴れ間のある日、明科町の押野地区で「白い仔犬」を見ることができた。仔犬はちょこんと座って東天井岳の頂を見上げていた。なかな かの秀作の雪形である。蝶の雪形はすでに終盤で、かろうじてその原型を留めていた。
写真:1.2.4
 2004.6.16 明科町
写真:3  
 2004.6.2 豊科町
写真1(仔犬の雪形1)

写真2(仔犬の雪形2)

写真2(蝶の雪形1)

写真2(蝶の雪形2)

350「アオサナエ」

美しい緑色をまとったトンボ、アオサナエ(青早苗蜻蛉)は、憧れの虫のひとつであった。いつか見てみたいと思っていたが、今回、日本蜻蛉 学会々長の枝 重夫先生に同行し、生息地を訪れる機会に恵まれた。

湖畔を歩いていくと、湖の方へ顔を向けて、岸辺に止まっているアオサナエを見ることができた。深い緑色の体が何とも美しい。人の気配に敏 感で、近づくと素早く飛び去ってしまうが、気が付くと近くに戻って来て、再び湖の方に顔を向けて止まっている。そんな追いかけっこを繰り 返しながら、憧れのトンボの撮影を楽しんだ。

ここではホンサナエも見ることができた。どちらも逞しさを感じさせるサナエトンボである。

写真1:アオサナエ♂ 
写真2:ホンサナエ♂
写真3:エゾスジグロシロチョウの吸水
 撮影:2004.6.16 北安曇郡
写真1(アオサナエ♂)

写真2(ホンサナエ♂)

写真2(エゾスジグロシロチョウ)


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