芋虫のつぶやき
VOL33:(321〜330)

321「ヒメアカタテハ」

初めて一眼レフを手にした高校1年の秋のこと。週末を待ちきれずに、被写体(もちろん蝶々)を求めて夕暮れのあぜ道を歩いた。 すぐに足元の草むらに交尾の状態でじっとしているチョウを見つけた。しかし、あまりに暗かったため、家に持ち帰って撮ることにした。

電灯の下に現れたのは、ヒメアカタテハだった。私は交尾しているつがいを無造作に窓際にとまらせ、2〜3枚のシャッターをきった。今でも アルバムの片隅に色あせたピンボケの写真が残っている。とても使える代物ではない。ヒメアカタテハがあまりにポピュラーな種だったため、 それほどの興味が湧かなかったのと、カメラの扱いに慣れていなかった故の結果であろう。

ヒメアカタテハは、秋になると急に数を増やし、人家周辺でもよく見かけるタテハチョウである。10月ともなれば、我が家の庭先に植えられ たマツバボタンに毎年欠かさず姿を見せてくれる。
にもかかわらず、あれ以来交尾の場面に出会うことは一度としてない。それどころか、全国的にも交尾の観察例は少ないと知った。「後悔先に 立たず」である。

写真1:
アカツメクサで吸蜜 2003.10.11三郷村
写真2:
マツバボタンで吸蜜 2002.10.6三郷村
写真3:
ヨモギを綴った巣を開いたところ 2003.10.26堀金村
写真1

写真2

写真3


322「常念岳と屋敷林と」

冷え込んだ朝の気温は氷点下を刻み、日中吹く風も冷たく冬らしさを感じる一日となった。常念岳や横通岳も冬の装いとなり、前山が枯れ木色 に沈む中、白い峰がひときわ映えて美しかった。

古民家を取り巻くように植えられた屋敷林は、主に防風林としての役割を果たしてきた。大屋根が特徴の「本棟造り」などの古民家とともに、 安曇野の代表的な原風景を形作っている。

そんな屋敷林も時代の移り変わりとともにずいぶん減ってしまった。野鳥など生き物の棲みかとしても貴重な役割を果たしているだけに、この 郷土の文化をぜひ後世に残したいものである。

写真1.3.4:
2003.11.18 三郷村
写真2:
1998.5 三郷村住吉地区(この風景はすでにありません)
写真1(屋敷林)

写真2(以前の三郷村住吉地区)

写真3(常念岳)

写真4(横通岳)


323「オンブバッタ」

10月も終わり近くなると、目にする虫たちもめっきり少なくなる。その分、見つけた一匹の虫への注目度は俄然高くなるわけである。

この日、一番の注目種はオンブバッタであった。親しみやすいネーミングと愛嬌いっぱいの表情が受けて、幼い頃のわが子に絶大な人気があっ たバッタでもある。

「お父さん、バッタの公園に行こうよ」。オンブバッタの微笑む顔を見ていたら、幼子の手を引きながらバッタを探した昔が懐かしく思い出さ れた。

写真1.2:2003.10.26堀金村
写真1

写真2(オンブバッタの顔)


324「ムラサキシキブ」

今年度最後となる昆虫クラブの活動が、県営烏川緑地で行われた。好天に恵まれたものの、谷間に陽光が届くまでは気温が低く、かじかむ 手をさすりながらの観察会となった。

公園内の木々の多くは落葉し、冬の装いを濃くしていた。真っ先に目を引いたのはムラサキシキブであった。枝にはまばらに実が残り、朝露に 濡れた実が美しかった。

写真1.2:2003.11.22 県営烏川緑地
写真1(昆虫クラブ)

写真2(ムラサキシキブ)


325「ツノゼミ」

ミドリシジミの卵を探そうとハンノキ類の枝を蚤(のみ)取り眼で見つめていたところ、ツノゼミとセグロアオズキンヨコバイが相次いで見つ かった。

ツノゼミは耳を思わせる2本の角と、背中の後ろに伸びる鋭い突起が特徴である。以前「芋つぶ」で紹介したタケウチアトゲアワフキも後方へ の突起を持つが、どのようなときに役立つのだろうか。

セグロアオズキンヨコバイは、どの部分を称して「青頭巾」というのか不明であるが、なかなかユニークな名をつけたものである。せっかく虫 の名前を覚えたつもりでも、肝心なとき度忘れに泣く私にとっては、このようなインパクトのあるネーミングは大変ありがたいのである。

写真1.3:2003.11.22 県営烏川緑地
写真2 :2003.6.29 安曇村
写真1(ツノゼミ)

写真2(タケウチトゲアワフキ)

写真3(セグロアオズキンヨコバイ)


326「カギシロスジアオシャク?幼虫」

コナラの冬芽の脇に止まり、冬芽に成りきっているのはカギシロスジアオシャクと思われるガの幼虫である。

背中の突起が頂芽を形づくり、体の色調も冬芽にそっくりなので、ここにいると指をさしてもすぐに理解する人は少ないだろう。

このまま越冬し、春に新芽が萌え出す頃、幼虫はあっと驚く変身を遂げる。来年の「芋つぶ」で是非紹介したいと思っている。

写真1.2:カギシロスジアオシャク?幼虫
 2003.11.22 県営烏川渓谷緑地
写真3:カギシロスジアオシャク成虫
 2002.7.5 三郷村
写真1(カギシロスジアオシャク?幼虫)

写真2(カギシロスジアオシャク?幼虫)

写真3(カギシロスジアオシャク成虫)



327「冬のモンキチョウ」

この日は冬型の気圧配置となり、太陽は顔を出していたものの冷たい風が骨身にしみる一日となった。アルプスには雪雲が垂れ込め、垣間見え た横通岳は白銀に輝いていた。

環境調査で訪れた堀金村のあぜ道で、からみ合いながら飛ぶ2匹のチョウを目撃した。地面に舞い降りた一匹に近づいてみると、モンキチョウ のメスであった。12月も半ば近いというのに、まだ成虫がいたとは驚きである。

一たび草むらに降りたモンキチョウは、陽の差す方向へ体を傾けたたまま動かない。翅のソーラーパネルを使っても、今日の寒さでは体温が上 がらないのだろう。

このほかに、ヒメアカタテハにも出会った。比較的新鮮な個体で元気に飛んでいたが、このチョウは信州での越冬自体が難しいと言われている。

写真1:モンキチョウ♀
写真2:横通岳
写真3:せぎの風景
  いずれも2003.12.9 堀金村
写真1(モンキチョウ♀)

写真2(横通岳)

写真3(せぎの風景)


328「本年もよろしくお願いいたします」

本年も「芋虫のつぶやき」を宜しくお願い致します。

ここひと月ほど公私共に慌しい日が続いたため、フィールドから遠ざかっており「芋つぶ」も冬眠状態でした。「芋虫はもう終わりですか?」 などと心配して声をかけてくださった方もいて、嬉しく思った次第です。

今年の冬の暖冬は顕著です。元旦以降、好天が続き小春日和を思わせる日もありました。景色の写真を見てもお分かりのように、安曇野の平に は積雪がありません。このまま冬が終わるとは思いませんが、温暖化や異常気象などが気になるところです。

さて、今年の元旦は、三郷村北小倉地区に伝わる道祖神祭りのひとつ「御柱」を見学しました。まだ薄暗い午前5時30分頃から、子どもた ちが「御柱立てるで出てくりやい」と地区内を触れて回ります。静かな集落に子どもたちの声だけが響きます。

6時を過ぎる頃になると各戸から大人たちが三々五々集まってきます。その後、冬の間に子どもたちが中心となって作った飾り物で柱を飾りつ けると準備完了。木遣りの声に合わせて、はしごなどを使いながら一気に立てます。地区総出の共同作業。大人も子どもも、そこにいる全員が、 御柱の無事立てられることを祈り、思いはひとつになります。

見事に立てられた御柱と初日の出に一年の無病息災を祈り、元旦恒例の行事は終わりとなります。見ていて背筋が伸びる思いがしました。

伝統行事を続けていくことが難しい時代ではありますが、この行事があることを心底「羨ましい」と感じたひとときでした。(1月7日記)

写真1:2004.1.7
 三郷村から後立山連峰を望む
写真2:2004.1.1
 御柱立て(三郷村北小倉下村)
写真1(雪のない正月)

写真2(御柱)


329「デジカメ依存症」

ここ丸2年、デジタルカメラで通してしまった。一昨年の正月は銀塩復活を誓ったものの、今や完全に「デジカメ依存症」に陥っており、かつ て大切に磨いてきた一眼レフは、その出番を失って青カビの繁殖を許している。

デジタルカメラの性能は日進月歩で、高い画素数や高機能の製品が毎月のように発売されている。また、交換レンズが使える一眼レフタイプの 機種もずいぶん増えてきている。

自分はというと、99年製と02年製のコンパクトデジカメ2台を酷使して撮影している。2台のオートフォーカスは接写にすこぶる弱く、ピント は被写体の前後を行ったり来たりで埒があかない。翅のある虫はその間にどんどん逃げていった。この2年間でどれほど悔しい思いを繰り返し てきたことか。

一方、何枚撮ってもフィルム代を気にすることなく撮影できるメリットは前述の欠点を埋めて余りあるものと感じている。気づいてみたら、一 年平均10,000枚を撮っていたとは私自身驚きであった。そして、その中には以前だったら被写体にすることのなかった様々な虫たちが入ってい る。

デジカメのもうひとつのメリットを挙げるとすれば、レタッチソフトを使って自分で色合いなどを調整できることであろう。写真屋任せだった 領域に手が届く喜びは思ったよりも大きいものであった。

その一例として、飛翔するオニヤンマの写真を御覧いただきたい。元の画像はストロボが強すぎて明らかに失敗した写真である。露出の許容範 囲が狭いポジであったら救いようのないところだ。ところが、この画像をレタッチソフトにかけると、何とか使えそうな写真になるから驚きで ある。デジカメ依存症の原因はこの辺にもありそうである。

写真:2003.9.12 堀金村
写真1(オニヤンマ1)

写真2(オニヤンマ2)


330「黒沢の滝」

垂直の岩肌に蒼然と浮かび上がる氷の巨塔高さ30メートルの壁を流れ落ちる水はいま氷の牙となり岩を噛む

寒水を湛える氷の滝壷は神器となってほのかな青い光を宿す

荒々しくも荘厳な黒澤の滝
氷の鎧は 冬の正装

写真:2004.1.10
写真1(黒沢の滝1)

写真2(黒沢の滝2)

写真3(滝つぼ)



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