芋虫のつぶやき
VOL17:(161〜170)

161「コオニユリ」

夏はユリの花がよく似合う季節でもある。取り分けコオニユリやクルマユリなどは、浮き立つようなオレンジ色で野面を飾っていて際立った存 在だ。

これらの花に来るのは、カラスアゲハやミヤマカラスアゲハなどの黒いアゲハチョウ。体に花粉をたくさん付けて無心に蜜を求める。

ところが、今年は暑さのせいかチョウが少ない。せっかく立派な花を付けて昆虫を呼んでいるユリたちも手持ち無沙汰のようだ。

写真:2002.8.3 三郷村
写真1(コオニユリ)


162「ミヤマカラスアゲハの吸水」

中学生の頃、林道沿いの濡れた砂地で水を吸う、ミヤマカラスアゲハの集団に出会い息を呑んだ。チョウとはかくも美しいものかと胸が高鳴っ た。

あれから30年、渓流沿いの林道の多くは舗装され、チョウたちの吸水環境は寂れるばかりである。集団吸水も稀となり、スピード上げて林道 を走る車に轢かれるチョウも少なくない。

この日出会ったミヤマカラスアゲハも、濡れたアスファルトで吸水をしていた。立派な夏型の雄である。

近づいても無心に水を吸っていて、飛ぶ気配がない。チョウたちのために安心して吸水のできる環境をつくってやりたい気分になった。

写真:吸水する♂ 2002.8.8 三郷村
   轢かれた♂ 2002.7.23 島々谷
写真1(ミヤマカラスアゲハ)

写真2(ミヤマカラスアゲハの交通事故)


163「アサギマダラのマーキング」

8月3日、昆虫クラブの活動を三郷スカイラインで行った。目的は長距離の渡りをするチョウ、アサギマダラへのマーキングである。

例年に比べて一際暑い夏のためだろうか、シーズン盛りだというのにアサギマダラが少ない。

最終的にマーキングできたのは3匹だけだったが、南国での再捕獲の願いが込められたアサギマダラは、子供たちの手によって大空へ放たれた。

写真:2002.8.3 三郷村
写真1(アサギマダラマーキング)


164「ハンノアオカミキリ」

チョウの最盛期も過ぎようとしているのに、あろうことか高山チョウを観察する適期を逃してしまったようだ。

あれこれ言い訳をしていても始まらない。せめて高山チョウきっての大型種、オオイチモンジの産卵シーンだけでも撮影しようと上高地を訪れ た。

中田君が以前確認していた生息地には、オオイチモンジの食樹のドロノキが認められたものの、蛇籠による護岸工事が終わり、水の浸食をまっ たく受けなくなったため、他のヤナギ類が密生していて空間がなく、このチョウの生息には不向きな環境に変貌していた。

コンクリートを使わない工事であっても、オオイチモンジの生息が脅かされる現実を目の当たりにし、考えさせられた。結局、この日は別の場 所で一匹の雌の産卵行動を目撃しただけだった。

一番の収穫と言えば、美しいハンノアオカミキリを撮影できたことであろうか。

写真1:護岸工事によりヤナギ類が密生した生息地 
2002.8.5 上高地
写真2:ハンノアオカミキリ 
2002.8.5 上高地
写真1(オオイチモンジ生息地)

写真2(ハンノアオカミキリ)


165「ヤリガタケシジミの卵」

徳沢近くで産卵行動のヤリガタケシジミ雌に会った。このチョウは、ひところ独立種として扱われていたが、その後、アサマシジミの亜種とし て分類されている。

食草は、実の形からマメ科のタイツリオウギと思われた。母チョウは、食草に止まってから、根元に向かって歩き出す行動を繰り返していた。

産卵のシーンは観察できなかったが、枯れた食草の根元に産付された卵を確認することができた。孵化するのは来年の春である。

写真:ヤリガタケシジミ卵 
2002.8.5 上高地
写真1(ヤリガタケシジミの食草)

写真2(ヤリガタケシジミの卵)


166「ネキトンボ」

雄は、アカトンボの中でも最も赤味の強い種のひとつ。翅の付け根が黄色いのでこの名がある。

もともと暖地系のトンボで、新潟・福島県以西の本州と、九州・四国に分布するが、信州における確認例はあまり多くなかったといわれる。

ところが、最近は安曇野周辺でもだいぶ見かけるようになり、今回の撮影地では複数の個体を目撃した。

性急に温暖化と結びつけるべきではないが、今後気になる虫のひとつである。

写真:2002.8.13 堀金村
写真1(ネキトンボ1)

写真2(ネキトンボ2)



167「ミヤマシジミ」

ミヤマシジミ(深山小灰蝶)の名がついているが、深山には少ない。河川敷や田畑の土手などの、明るく開けた草原に生息するチョウである。

食草(樹)のコマツナギは、馬をつないでも切れないほど丈夫なことが名の由来というマメ科の植物。美しい紅紫色の花を連ねた花序をつくる。

朝7時に生息地を訪れると、ミヤマシジミは盛んに花を訪れていた。常時4〜5匹が活発に飛び回り、8時頃には交尾を観察することもできた。

かつてはミヤマシジミを多産した安曇野であるが、コマツナギが生える生息環境が次々と失われて、このチョウの未来に暗い影が差し始めてい る。

写真1:食草のコマツナギに止まる♂
 2002.8.13 安曇野
写真2:交尾 右が♂
 2002.8.13 安曇野
写真1(ミヤマシジミ1)

写真2(ミヤマシジミ2)


168「カワラナデシコとキキョウ」

カワラナデシコとキキョウは、秋の七草として知られる。万葉集で山上憶良が詠んだ七草「萩の花 尾花(ススキ) 葛花 瞿麦(ナ デシコ)の花 女郎花(オミナエシ)また藤袴(フジバカマ) 朝貌(アサガオ)の花」が秋の七草の由来とのこと。

このうち、「朝貌」は一般的にキキョウと解されているが、ムクゲやヒルガオなどの説もあるという。野生のキキョウは最近めっきり少なくな った。

写真1 カワラナデシコ 
写真2 キキョウ
いずれも 2002.8.11 安曇野にて
写真1(カワラナデシコ)

写真2(キキョウ)


169「センノウたち」

写真のエンビセンノウとフシグロセンノウはナデシコの仲間。共に「センノウ」という名を持つ。センノウは、京都の仙翁寺に由来するものと いわれる。

エンビセンノウは燕尾仙翁の意。花弁の形を見ればなるほどと頷ける。全国的に見ても稀な花で、本州では青森・長野・埼玉・山梨で確認され ているのみ。

フシグロセンノウ(節黒仙翁)は、その名のとおり節が黒っぽい。やや日陰を好む花で、濃い橙色の五弁花は遠目でもよく目立つ。

写真1:エンビセンノウ 
2002.8.6 高遠町
写真2:フクグロセンノウ 
2002.8.11 安曇村
写真1(エビセンノウ)

写真2(フクグロセンノウ)


170「カマキリモドキ」

「田淵行男記念館むしの会」が主催した蛾の観察会でのこと。面白い昆虫が飛んできて、参加した子どもたちを喜ばせた。

まずは「カマキリモドキ」。おそらくヒメカマキリモドキではないかと思われるが、アリジゴクで知られるウスバカゲロウと近縁の虫だ。

カマキリモドキは、外見がカマキリに似ているだけではなく、実際にそのカマを使って餌となる虫を捕食してしまう。

もう一種は「アヤヘリハネナガウンカ」。湿気の多い林縁で見られ、幼虫は菌類を食べているという。このように翅が角張った形の昆虫も珍し いと思う。

「アヤヘリ」というのは「綾縁」の意。前翅の外縁が波打っていることによるという。

写真:2002.8.10 豊科町
アヤヘリハネナガウンカ‥
協力:望月町 小野寺 宏文氏
写真1(ヒメカマキリモドキ1)

写真2(ヒメカマキリモドキ2)

写真3(アヤヘリハネナガウンカ)




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