bS10「スジボソヤマキチョウの交尾」
スジボソヤマキチョウは、4枚の翅先がとがった独特の形をしたチョウである。ことに雄は翅表に鮮やかなクリーム色を持つ 美麗種でもある。

2006年8月、松本市保福寺峠近くの草原で、このチョウの交尾を観察する機会に恵まれた。そのときの「葉隠れの術」とでも 言いたくなるような、周囲の環境にとけ込み姿を消す習性はあまりに見事で、思わず「スゴイなぁ」とうなってしまった。

交尾の場所として選んだのはノリウツギの葉裏。葉脈がよく浮き出た裏面は、やはり翅脈が浮き出ている彼らの翅裏とよく 似ている。そして葉のフィルターを透かして溢れる青みがかった緑陰色が、これまた彼らの翅裏の色彩と同系なのだ。伸ばした 触角や翅裏の点状の斑紋さえ、小枝や、葉の病斑に見えてしまうから不思議である。

スジボソヤマキチョウの雌が産卵するのは、成虫で越冬した翌春、8ヶ月も先のことである。

交尾観察の記録は以下のとおり。
2006/7/30 松本市保福寺峠付近の草原
Am
11:26:58〜27:01
スジボソヤマキチョウの求愛飛翔を目撃。このときは2〜4m位の高さで飛んでいた。                 
11:27:53〜 突如2頭は高度を落とし、シバ草原をきわめて低く飛ぶ。
11:28:00頃 ♀が独立して生えていたノリウツギの低い位置の葉裏に止まると、すかさず♂が♀の胸部にしがみつくような形で 止まる(写真2)。このとき♂が腹部をまげて交尾に至る.この間10秒前後。このノリウツギは草原の中にポツンと あるような 存在で、周囲の空間は広い。交尾の座となった葉は地表から30cmくらい。
11:28:15頃〜 反対方向を向き合う交尾姿勢となり静止。12:00まで見届けるも位置等に変化なし。この後、チョウの付いた葉を枝ごと そっと持ち帰り、三郷昆虫クラブ員のTさんに交尾解除の時間を計ってもらった.交尾が解けたのは午後4時であった。

写真No1(吸水に集まる♂)
写真No2(交尾の瞬間、左が♂で同方向を向いている)
写真No3(静止位置)
写真No3(拡大)