bR97「ナガサキアゲハ」
近年、南の暖かい地方のチョウが、安曇野周辺で採集されたり、中には 越冬して定着の兆しをみせる種まで出てきた。これらのチョウが北へ分 布を広げようとする背景には、温暖化の影響があると考えられている。
今年は10月中旬になっても、安曇野のいたるところでツマグロヒョウ モンを見かける。翅の一部にサーモンピンクを持ち、南国の香りを漂わ せる美しいタテハチョウであるが、平成7年に三郷小学校の庭で信州初 の越冬が確認されて以来、安曇野でも断続的に越冬が確認されている。 そして、平成15年には三郷中学校で、クロコノマチョウという暖地系 のジャノメチョウが採集された。
さらに、去る9月23日、安曇野市堀金地区で、ナガサキアゲハの雌が 目撃された(三郷昆虫クラブ 中田信好氏)。ナガサキアゲハは近畿以 南に分布する大型のアゲハチョウで、信州には生息していなかったが、 2003年に下伊那地方で初めて発見され、発生も確認されていた。中信地 方への北上もささやかれていた矢先の出来事であった。
三郷昆虫クラブでは、目撃されたナガサキアゲハが雌だったことから、 食樹に産卵している可能性が高いと考え、幼虫探しを行うことにした。 ナガサキアゲハの食樹となるのは、民家に植えられているミカン、ユズ、 カラタチなどのミカン科植物で、これらの木にはこの時期アゲハチョウ などの幼虫が付いているが、ナガサキアゲハはこの幼虫の中に紛れ込ん でいる可能性がある。
三郷昆虫クラブでは、10月15日より民家に植えられた食樹を調べて 歩く活動を開始し、新聞などにPRをお願いした。翌日から多くの情報 が集まる中、松本市和田の中学生(中村 泰幸君)からの一報を受け現 地へ出向いた。そのお宅の庭に置かれた鉢植えのミカンに付いていた幼 虫こそ、ナガサキアゲハの4齡幼虫であった。
これにより、ナガサキアゲハがかなり広範囲に飛来していた事実が明ら かになったのである。
仰ぎ見る常念岳には氷河期の生き残りの高山チョウが生息し、麓の安曇 野では、暖かい地方から進出してきた新顔のチョウたちが舞う、そんな 不思議な光景が現実となりつつある。

写真1:ナガサキアゲハ4齡幼虫 2005.10.16 松本市
写真2:幼虫が付いていた鉢植えのミカン 2005.10.16 松本市
写真3:幼虫探しの活動(三郷昆虫クラブ)2005.10.16 松本市
写真4:ツマグロヒョウモン♀ 2005.9.30 三郷村役場前

写真No1(ナガサキアゲハ4齡幼虫)
写真No2(幼虫が付いていた鉢植えのミカン)
写真No3(幼虫探しの活動)
写真No4(ツマグロヒョウモン♀)